雨のみちをデザインする 株式会社タニタハウジングウェア

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ディテール Detail

深い軒やバルコニーの雨といの処理は、一般的に先端の横といや側溝から呼びといにより壁面まで導かれ、竪といに接続されます。そのジョイント部は軒やバルコニーの形状なりに曲げられることが多く、美しくありません。また、竪といは壁の突起物などがある場合も同様に、その突起物に沿って曲げられてしまい、美しくありません。しかし、ジョイント部を極力シンプルにし、軒先端付近からまっすぐ、あるいは竪といをかわし、宙を走るように竪といを設けることができれば、美しく見せることが可能です。この章では曲がりがなくシンプルかつ構成的で美しい竪といのディテールについて述べていきます。

5-1 軒先

 昔の樋は、現在のように自由に曲がる金属や樹脂ではなく、竹や板材などの自然素材でつくられていました。基本、竹や板材は曲がりが存在せず、直線のぶつかり合いで美しい水の流れをつくり出しました。数少ない自然の材料を創意工夫して、つくり上げた美しい“雨のみち”です。

1.宙を走る竹の樋
待庵 (千利休)

 待庵は、現存する千利休の遺構としては唯一のもので、草庵風小建築です。
 茶室部分を切妻屋根とし、躙り口部分を土庇としています。切妻部分は軒の出が浅く、その妻面に土庇がついています。土庇の軒先はかなり低く軒の出(約半間)も深く、とても親しみやすい身体感覚にあった外観をつくっています。

 人がアクセスをする躙り口(にじりぐち)部分は軒を低く深く、かつては軒といが付いていましたが、現在は樋無しとなっていて、すっきりとした茶室の顔をしています。それに対し、軒の出が浅い部分には、樋を設け外壁の保護を図っています。とても機能的な構成です。

 切妻屋根の東西平面の軒先につけられた半割の竹の軒といは、妻面を飛び越し、宙を舞い竹の竪といを支持しています。特に西側の軒といは土庇を越えて竪といとともにささやかなゲートを形成していて、まさに宙を走る竹の線材で構成されたフレームが軽やかさを助長しています。現代にも十分通用する美しい樋です。

2.軒とい・竪とい・呼びといによる構成的な樋
桂離宮月波楼

 桂離宮月波楼の樋は、待庵と同様にとても興味深いものです。以前「1章みせる」で、軒といのみで竪といのない例として宙に跳ね出している竹の軒といの話をしました。月波楼の板敷き膳組の間の樋の処理は、とても構成的です。

 スケッチのように、寄棟の軒といは宙を走り、頂部に木製の漏斗(角錐台の枡)を持つ竹の竪といに漏斗の部分で接続し、さらに下屋の軒といの呼びといが竪といに接続され竪といが倒れないように支持しています。軒といが宙を走り持ち合いながら線の美しい構成をつくり出しています。構成の美しさもさることながら竹と漏斗の接合のディテール、先端がすぼまる木製の呼びといなど部材自体もとても美しい“雨のみち”です。

3.宙を走る美しい樋
小出邸(堀口捨巳/1925)

 建築家・堀口捨巳の処女作ともいえる「小出邸」は、ピラミッド状の宝形屋根と水平の屋根を持つブロックが貫入した構成で、大屋根とシャープな軒の水平ラインの対比がとても印象的な外観をしています。この幾何学的な構成は面と線で構成される「デ・スティル運動」の影響を強く感じることができます。

 軒先に設けられた竪といは、外観を構成するひとつの線の要素として曲がりもなく宙を走っています。伝統的な竹の樋といの収まりを現代的に用いていて、ここでもモダニズム建築と伝統文化の融合を実践しているといえます。

 宙を走る樋の支持がまた心憎いです。1本の鉄のフラットバーを捻って曲げ、緩いカーブをつけたV字とし、根元近くを同材でつないで補強しています。単純なディテールで人の手の温もりが感じられ、それ自体が工芸品でとても美しい。この美しい支持材で宙を走る樋はとても繊細で美しい“雨のみち”です。

 小出邸は1996年(平成8年)まで家族によって大切に住み続けられ、1998年に、都立小金井公園内の江戸東京たてもの園に移築復元されました。ぜひ機会をつくって空間を体験して下さい。

4.美しい外観の一部となる樋
ヒヤシンスハウス(立原道造/構想1937/竣工2005)

 詩人で有名な立原道造が、生前に計画した自分のための狭小住居です。約70年の時を得て実現されました。狭小が故に、さまざまな工夫がなされ、狭さを感じさせない豊かな空間となっています。

 外観は、片流れのシンプルな形態です。軒の先端の横といから宙を走る竪といが雨を導きます。竪といの下部には雨水を貯める壺が置かれ、環境にも配慮されています。深い軒の出と板張りの外壁、緑の開口部、そして宙を走る竪といがアクセントとなり、絶妙なバランスの美しい外観をつくり出しています。

5.軽やかさと浮遊感を醸し出す樋
牧野富太郎記念館(内藤廣/1999)

 内藤廣の牧野富太郎記念館は、「3章:うける」、「4章:おどる」でも取り上げました。牧野富太郎記念館は、「日本の植物学者の父」と呼ばれた牧野富太郎の収集した膨大な標本やと書物を収蔵し、展示公開する施設です。

 この記念館は自然をこよなく愛した牧野富太郎の精神に呼応し、豊かな五台山の景観を壊さないように緩やかな尾根に添うように立っています。自然に溶け込む屋根に囲われた中庭は、緩やかなカーブを描く深い庇によって内外一体となった場となっています。

 軒は約2.35mと住宅スケール並みの低さで緩やかに上下し、軽やかさと浮遊感を醸し出しています。そこに取り付く竪といは中央で切り取られ宙に浮き、屋根の軽やかさを増しています。その下には雨をうける水盤があり、水棲植物が育っています。水棲直物を楽しみつつ、雨の日は竪といを落ちる雨と水盤の飛沫が視覚化され楽しい。水盤を通る風は冷やされ熱負荷を軽減するクーリングの役目を果たすなどを環境と一体となった“雨のみち”です。

6.垂直性を持つファサードの一部となる樋
愛知県立藝術大学講義棟(吉村順三/1966)

 名古屋市郊外の丘陵地に建つ愛知県立芸術大学は、吉村順三が設計を手がけ1966年に開学した美術と音楽の総合芸術大学です。校舎は広大で豊かな緑地の中に環境を生かしつつ地形に寄り添うように分散配置されています。その南北の中心軸に講義棟はあります。講義棟は戦後モダニズムを代表する打ち放しコンクリートのピロティで講義室を持ち上げ、軽快さを生み出すとともに、中心軸でありながら学生たちの回遊性をつくり出しています。

 雨を導く竪といはピロティに呼応するように中2階位の位置で切られ、雨はその下にある煉瓦でできた受け皿に落ちるようになっています。煉瓦の受け皿はちょうどベンチぐらいの高さがありますが、地面と同じ煉瓦のため違和感が全く感じられません。竪といは壁から支持され真っ直ぐの状態です。講義室平面の縦ルーバー、ピロティの軽やかさと垂直性をつくりだす十字形柱と相まって、竪といから落ちてくるラインさえもファサードの一部となって美しいです。

5-2 バルコニー・開放廊下

1.端正なファサードをつくる既成の雨とい
ヌーヴェル赤羽台C街区6・7号棟 (山本堀アーキテクツ/2010)

 集合住宅において開放廊下側のファサードは特に単調になりがちで、さみしさが漂います。また、雨といは呼びといにより無造作に壁際の竪といに接続されファサードを乱しています。

 このプロジェクトには、コミュニティの延長として開放廊下に出ニッチと読んでいるベンチ付きのガラススクリーンボックスを設けています。向こう三軒両隣のコミュニティの単位を踏襲し6ユニットに一つの割合でランダムに配置、単調なファサードにリズムを与えています。夜は行灯のように光、夜の風景をつくり出します。

 問題の雨といは、スラブ先端の配筋には十分な検討を行い、横引きドレンを介して、手摺前面に設けた既製品のアルミバンドレスの竪といに接続しています。そうすることでうっとうしい横といを無くし、宙に浮いたような軽やかな美しい縦のラインを生み出しています。アルミの横リブ手摺との対比や、出ニッチと協調しあい、リズム感のある楽しいファサードをつくり出しています。

5-3 壁面

1.独立する樋、宙を走る樋
海の博物館 (内藤廣/1992)

 海の博物館は、海を背景に樹々の中に重なり合う落ち着いた瓦屋根の屋根並みによって、美しい景観をつくり出しています。エントランスを進むと、水盤を抱いた2棟の深い庇を持つ展示棟が迎えてくれます。

 展示棟2棟は木造で外壁は黒く塗装された杉板貼りです。足元1.5メートルは、柱の外側に張り出し、ガラススクリーンを設けています。このガラススクリーンが、重くなりがちな単純な形態を軽やかに見せるとともに、内外の連続性をつくり出し、明るく気持ち良い展示室を生み出しています。

 このような深い庇の屋根と外壁に雨といをつける場合、軒からの呼といを受け、雨を導く竪といがガラススクリーンの上部で曲がるので、みっともない姿になることが多々あります。ここではまず、直径130mmのアルミパイプを地面の中でスラブに固定し、上部では外壁から持ち出して、独立した柱のような“宙に浮く竪とい”として設けています。竪といと呼といのジョイント部は、竪とい上部を欠き込み、呼といを差し込むだけのシンプルなディテールで構成しています。また、樋は妻面から外した位置に設けています。これらの配慮で、シンプルで美しい景観をつくり出しています。

タニタメモ

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