ディテール Detail
”かくす”は、雨といを見せない手法です。公共的な施設ではたてといを隠蔽し外部に出さないディテールが一般的です。しかし、隠蔽した途端雨漏りの原因をつくるようなものです。雨といの基本はやはり“あらわし”です。しかし、“あらわし”とした途端、雨といはファサードの重要な一要素となり、美しいファサードをデザインするのはとても大変です。この章では、大きく2つの手法について取り上げます。一つはたてといを外壁側に設け柱やスクリーン等で隠しスッキリしたファサードを創る手法です。もう一つは躯体自体に雨といを打ち込む手法です。この場合構造の一部となるので十分な構造検討が必要です。
7-1柱・スクリーン
東北大学青葉山キャンパスの中心に立つ学生のための更生施設と工学部事務機能の入る複合施設である。自然の形状に再生された東西軸の尾根筋に沿うように建ち、南の疎林と再生された北の緩やかな斜面広場に開けている。学生たちは北側から緩い傾斜を散策するように建物にアプローチし、主導線となるロッジアのガラススクリーンが学生たちを迎えてくれる。ガラススクリーン越しに学生たちの活動が滲み出て活気あるファサードをつくり出している。
屋根の雨といは極力外壁側に配置するのが基本と考えるとたてといがガラスクリーンの端正でフラットな面を乱してしまう。ここでは一部分をガラス面の幅に合わせて外壁をつくり、たてといを設置して前面にドットプリントしたガラススクリーンを設けて隠し、フラットなガラススクリーンのファサードを実現している。
高台に立つ8階の集合住宅である。そのためこの棟は崖線に向かって南側に豊かな眺望が開けている。この環境を生かすように、南側にガーデニングが楽しめるガラス手摺の奥行きのあるバルコニーと物干し利用の竪格子の奥行きの浅いバルコニーを千鳥配置している。柱芯に上下階の凹凸バルコニーの凸部を串刺すようにGRCマリオンが通っていて、列柱のようなリズムを生み出す。たてといはGRCマリオンの中に収まり凸部では中継ドレインで、凹部では呼び樋で接続し雨を導いている。たてといは正面から見えないため呼び径75(塩ビ製)である。このたてといを隠蔽したGRCマリオンと千鳥配置が住戸に明るさをもたらすとともに、単調になりがちな集合住宅のファサードにリズミカルな表情をつくり出す。
対照的に、開放廊下側は水平に伸びるガラス手摺による軽快で開放的なファサードだ。雨を導くたてといは鋼製100φで、スパンの中心の手摺側に手摺の支柱とスラブで支持され、中継ドレインにより雨を導きながらまっすぐ宙を走る。呼び樋を設けないすっきりした納まりがガラス手摺とともに端正なファサードをつくる。また呼び樋がないこの竪樋は廊下から見ると列柱のようで開放的でありながら安心感を生み出す。
道路沿いに立つ8階の集合住宅である。格子状のプレームと格子から伸びる2層の列柱が特徴の、端正でありながらリズミカルなファサードだ。普通であればバルコニー先端で集水した雨を呼び樋で第2構面のたてといに接続する。ここでは前面に格子があるのであまり気にならないが、通常呼び樋は戸境を外れた位置に来ることになり綺麗に納まらない。しかしどんなに目を凝らして見ても呼び樋、たてといが見当たらない。それがフレームの美しさを際立たせている。
なんと縦のフレームはコンクリート打放しではなくフェイクだった。一階はピロティになっていてフレームの後ろ側を見ることができる。なんと柱だと思っていたフレームに目地が見えた。足元の植栽側にも配管が見る。これを見て納得した。フレームはコの字のPCでその中をたてといが通っている。フレームの後ろにたてといを隠す例はたまに見ることはあるが、たてとい自体を隠す徹底さには頭が下がります。
中庭を囲む3階たての集合住宅である。中庭に面し外廊下が回っている。外廊下は最上階の庇と廊下先端で雨を集め呼び樋で第2構面の壁面に導きたてといで流すのが基本で、軒裏に呼び樋が見えファサードを乱してしまう。片廊下部分の第1構面は、2階までの門型の壁と3階の水平な庇で中庭の領域をつくりつつ、対面の開放的な廊下と共に豊かな中庭空間を演出している。ここでは普通見える呼び樋がない。
3階の水平な庇の雨は逆勾配で壁側へ流し廊下のPSのたてといに接続している。オーバーフローを兼ね、横引きドレンで屋上へと導いている。3階・2階の廊下の雨といは先端の壁の裏側に設け中継ドレインで導くことで、雨といの見えない丹精なファサードを実現している。廊下側も壁を半円に欠き込みたてといを埋め込み壁面と一体化している
7-2躯体雨とい
グランドに面して水平に伸びる庇と3階のスラブラインと4層分の列柱、そしてセットバックした3.4階の壁面と2層のピロティが、陰影を生み出し伸びやかでリズミカルなファサードをつくり出している。雨といはどこにも見えない。
なんとコンクリートの列柱の先端にVP100の管を打ち込み、スリット状に欠き込みを入れオープンなたてといとしている。型枠解体後にたてといはカットしているそうだ。スリットを入れることで鈍重になりがちな柱を分節し繊細でリズミカルな列柱を実現している。打ち込まれているがオープンといのためゴミも詰まりにくく、たてといが視認できるためメンテナンスも容易である。また、スリット幅はモックアップによる実験を行い、オープンといの中で雨水がくるくると回りながら流れ、外に大きく飛散しない開口寸法を決めたそうだ。
昨今では構造解析と技術の進歩から自由な曲面の屋根を持つ建築が増えている。自由曲面の雨の処理は大変だ。屋根面に凸部凹部ができ当然雨が凹部に溜まる。普通は室内にPSを設け雨を導くのが一般的だと思うが、せっかくの自由曲面による連続した豊かな空間はPSによって阻害され連続感を失う。そのような中、屋根と連続し支える鉄筋コンクリート造の柱に雨といを打ち込み、豊かな空間を実現している建築がある。伊東豊雄設計の「瞑想の森」がその一つで、空間を豊かにする構造と一体となって雨といがデザインされている。このデザインは過去にも行われている。昔は自由曲面ではないが、構造自体を表しとし豊かな内部空間をつくるマッシュルームコラム構造もPSが空間を阻害する。マッシュルームコラムに雨といを打ち込み一体的な内部空間を実現したのが、長沢浄水場(山田守設計)、ジョンソン・ワックス社本社(フランク・ロイド・ライト設計)だ。“かくす”の手法である。長沢浄水場、ジョンソン・ワックス社本社は鋼管を雨といとして直に打ち込み、瞑想の森は打ち込まれた構造用鋼管の中にステンレスの樋を設けている。鉄筋コンクリート造が示すように鉄とコンクリートは線膨張係数がほぼ同数で相性が良く、躯体に打ち込んでも問題ない。この手法は大きなフラットの屋根面にも有効である。フラットルーフの場合、外周部に雨が集まるように水勾配を取るため、自ずと中央部がかなり高くなる。例えばスラブ勾配をつけるなどの検討が必要だ。それに対して長沢浄水場の場合は5m毎に雨といが設けられ1/50の勾配で50mm高くなるだけである。躯体に打ち込むこれらの構造と一体となった雨といのデザインを見ていこう。
ファサードの一部はガラスカーテンウォールで覆われている。まるで現代オフィスの事務棟のようにも見える。内部には巨大な水槽の他、様々な機械室、監視室等がある。また整然と並ぶ浄水層の中央を横断するガラスに覆われた監視廊下や、搬入車が直接2階の倉庫にアクセスできるスロープなどがあり、まさに建築自体が浄水施設となっている。
その巨大な水槽の管にもなるのがマッシュルームコラムであり、外観からは4層に重なって見える。柱と柱の間隔は約5m、柱頭で直径が50cm、柱下部は23cmで上階の水槽と水平に重なる無梁板の薄い床スラブを支えながら、噴き上がる噴水をイメージさせる。全ての柱には雨といが打ち込まれ、雨水を地下の貯水槽に導き浄水として使用している。まるで建物全体が水の循環装置のようである。
環境の時代である今では当たり前になっている雨水利用である。打ち込まれた鋼管は本館で100A、操作廊で80Aである。先に述べたようにコンクリートの相性も良く、本館では曲がりもなくストレートにピットにつながっている。操作廊ではたてとい80Aに対して呼び樋100Aと太くし流れを良くしている。改修時に高圧洗浄で清掃し、今でも詰まらず使用されている。
このように建築の機能的な部分と造形的なデザインが一体となっているマッシュルームコラムは、山田がプロトタイプと呼んだように建築のあり方として理想的なものだ。構造と一体化しなおかつ雨の再利用も可能とした雨を導く洗練されたデザイン。全ての建築家が苦労する雨の処理を、雨水利用というプラスに捉え魅力的に表現されたデザインである。
湖と森に囲まれた火葬場である。火葬場には待合による椅子座、床座、火葬設備など人の活動によりそれぞれ調整された天井高がある。この最適な天井高を連続させてできた機能を包み込むような軽快な波型の屋根が湖と森に囲まれ美しい。
波型の屋根は凸部凹部ができる。屋根の凹部に柱があり、柱には216.3φの構造用鋼管が打ち込まれ、鋼管の中にステンレス製の114φの雨といが設けられ雨が流れる。雨といが隠蔽された柱は主に外周部に配置され外部の池や側溝につながれている。長沢浄水場、ジョンソン・ワックス社本社はフラットルーフだ。フラットルーフは外壁側に雨を流すこともできる。それに比べ凹部ができる自由曲面の屋根は建物内で処理しなければならない。まさに屋根、構造、内部空間と雨の処理が一体となった建築である。
ライトはこのジョンソン・ワックス社本社を設計するにあたり述べた「頂点にある近代企業の建築的表現として、この建築は古来信仰の場としてカテドラルがそうであったように、その中で働く人々の心を高揚させる場となるよう設計した。」と述べている。実際に2層,3層吹き抜けの空間に軽やかに伸びるマッシュルームコラムの林立が、静寂ですがすがしい執務空間を実現している。
柱と柱の間隔は約6m、頂部の円盤は直径約6m、柱下部は直径23cmと細く長沢浄水場と比べると軽快である。繊細なマッシュルームコラム部分に、長沢浄水場と同様に雨といが打ち込まれそこに雨が流れる。構造と機能が一体となったデザインである。
タニタメモ
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