ディテール Detail
”にせる”は、「かくす」で述べたように、公共的な施設ではたてといを隠蔽し外部に出さないディテールが一般的です。しかし、隠蔽した途端雨漏りの原因をつくるようなものです。雨といの基本はやはり“あらわし”です。“あらわし”の雨といを美しく見せる手法です。この章では樋自体を柱、オブジェ等建築のファサードの一部として樋として感じさせずに美しく見せるディテールについて述べます。
8-1柱
大阪城公園内に設けられた観光客の休憩スペースである。円形のドーナツ型平面で内部に開放された中庭を設けて、どの位置からでのアクセスと通り抜けが可能となっている。この建物の特徴は軽やかに宙に浮く薄い屋根だ。屋根はt19mmの耐候性鋼板で、25組の70mmφの傾斜したパイプ3本を1ユニットとした組み柱によって、軽快に支えられている。この斜めの柱はアンバランスでありながらリズムのあるファサードを作るとともに水平荷重にも抵抗している。屋根は中庭に向かって傾斜していて、その先端に雨を導いている。
3本の組み柱の中央を通るように耐候性鋼114.3mmφの半割の横樋を屋根下に溶接し、その上部に30mm幅、長さ1.1mのスリットを開け雨水を流したてといに流している。たてといは3本の組み柱の中央に設けているので柱のようにみえ一見その存在はわからない。建物高さを極力抑え、かつ“あらわし”の雨といを感じさせない組み柱で支えられた屋根を薄い鋼板構造とすることで、周辺の樹木に溶け込む軽快なファサードを生み出している。
この図書館は1998年に「下館市立図書館」として開館した後、市町村合併に伴い2005年に「筑西市立中央図書館」に改称、2000年に日本図書館協会建築賞を受賞している。老朽化による旧下館市立図書館の改築は旧図書館の閉塞感を払拭するため、敷地の東側を流れる勤行川と筑波山の豊かな自然景観を取り込むように、中心の開架書架と閲覧スペースは川に向かって開かれている。屋根はガルバリウム製、壁は上部がガラススクリーン、コンクリートのボーダーと金属の庇を挟み下部はレンガが使われている。安定感がありながら軽快なファサードだ。薄い屋根の雨を受ける樋が軽快さを助長する。
頂部がロート状の樋は、下部のコンクリート支柱と2階レベルのアルミV型金物により、壁面から距離を持ってキャンティレバー形式で独立して軒先に立っている。均等に配された8本のたてといは、軽やかで水平に伸びる屋根を支える細い柱のように並んでいる。そのたてといと曲線のコンクリートの腰壁が屋外読書スペースの領域をつくり、たてとい自体がファサードの一部になっている。
建築家谷口吉郎氏が暮らした崖下に犀川を見下ろす金沢市寺町に建てられた、建築と都市のためのミュージアムである。建築内には展示室のほか、建築家谷口吉郎氏の代表作を展示する象徴的な意味と貴重な日本の伝統的な建築美と優れた職人の手仕事を美術館に収納し公開するために、「迎賓館赤坂離宮 和風別館」の「広間」と「茶室」を忠実に再現している。「広間」の先には犀川を借景とした水盤と樹木が連続する水庭があり、水平な深い庇とさらし竹平割りのすだれにより切り取られた広がりのある眺望が確保されている。
水盤に跳ね出す深い庇には樋は見えず、庇を支えるように見える列柱がリズミカルで端正なファサードをつくり出している。水盤があるので垂れ流しにすることが多いが、ここでは雨は広い雨といで受け垂直の柱のようなたてといで水盤に導かれている。雨が上がった時も雨垂れによる水盤の乱れはなく、水鏡のように風景を取り込み、建物の中にいることを忘れてしまうような風景をつくり出す。
水面は床から110mm下にあり、石を置き床により水平面を確保するとともに給水による水面への影響を抑えている。先端のオーバーフロー水は側溝より取水し循環濾過方式により雨水も利用しつつ使用している。
8-2フレーム
この建築の特徴は、多摩川の眺望が広がる南西面に120mの長大なファサードを持つことだ。良い住環境を確保するため南と東に面したL型配置とし、容積を最大限消化するため日影規制で北と西に向かい段々とセットバックしている。段々の長大なファサードは、圧迫感がある上にスカイラインを乱す。それを解消しているのがフレーム構成を基本としたファサードだ。セットバック部分は最上部庇とスラブの水平線と縦リブの垂直線によりフレームを構成、整形となるように調整しスカイラインの輪郭を整えている。
フレーム構成を基本としたファサードの場合、縦リブはPCなどが多いが、ここでは雨とい兼用化粧柱とすることで雨といの存在を無くしている。
ここで使用している雨とい兼用化粧柱は既製品であるが、スラブを欠きこみ、化粧柱とスラブ先端を同面にしたことと、化粧柱の見付けとスラブの見付けをほぼ同寸としたことで、フレームデザインを強調して軽やかで端正でありながらリズムのあるファサードをつくり出した。
8-3格子
第1章「みせる」で紹介したアルヴァ・アアルト設計のメゾン・カレ邸である。「みせる」では西下がりの斜面に沿った美しい片流れの屋根を生かすように先端に設けられた、小さな象の鼻のようなガーゴイルと解放された雨を受ける排水口の美しい雨のみちについて話をした。今回はエントランスポーチを構成する薄くシャープな水平庇の雨のみちだ。緩やかな坂道を登ると敷地の勾配に呼応した大らかな片流れの屋根と低く抑えられた水平庇に守られたエントランスポーチが訪れる人を迎い入れる。
水平庇の雨のみちはまっすぐ伸びる柱のような2本のたてといとたてといを支持する3本の木で、美しい格子を構成している。そのため水平庇には呼び樋がなくシャープなファサードをつくり出している。美しい格子は2ヶ所あり、裏側は西下がりの片流れの屋根を美しくみせるガーゴイルが設けられている。
タニタメモ
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